[2006/06/01] 歯周病と心臓血管疾患(特にアテローム性動脈硬化症)の関連性
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
発達予防医歯学部門 健康長寿歯科学講座 歯科保存学分野
湯本 浩通         

 歯周結合組織の破壊を引き起こす感染症である歯周病は、歯周病関連細菌が歯面や歯周ポケットに定着・付着し、dental plaqueを形成する事により惹起される慢性炎症性疾患である。1990年代から、口腔内細菌感染症と全身疾患との関連性が着目され始め、特に、脳卒中・心臓血管疾患・糖尿病・早期低体重児出産は、口腔内の細菌が血中に入り、炎症性反応を惹起する事によって生じるというメカニズムが提唱された。
その中でも心臓血管疾患である“アテローム性動脈硬化症”は、アメリカにおいては死因の約50%以上を占めており、その約半数は、血栓・心筋梗塞という病態と関連している。この疾患は、生活習慣病の中に属し、多因子性疾患として捉えられており、喫煙・遺伝性素因・高脂血症(高コレステロール血症)・高血圧・食事・運動等がrisk factorとして挙げられている。さらに最近の研究から、感染症が動脈硬化を惹起させ得るkey triggerである可能性が示唆されており、クラミジア・ピロリ菌・サイトメガロウィルス・ヘルペスウィルス・歯周病原関連細菌であるPorphyromonas gingivalis (Pg)のようなある種の感染性病原体がアテローム病巣から検出され、その発症・進行を促進する事が示唆されている。このような観点から、口腔内細菌による口腔内感染症と全身疾患との関連性をもっと重視するべきであると警鐘する数々の報告がある。また疫学的研究から、動脈硬化の発症と血液中のこれらの病原体に対する抗体価に相関関係が認められる事も示されている。
 つまり、口腔内は様々な病原細菌のreservoirとして働き、歯周病等による歯性感染を通じて全身疾患の引き金になる事が考えられる。最近の有力な仮説としては、歯周病病巣からの歯周病原性細菌により菌血症が生じ、血管内皮や平滑筋細胞が損傷を受け、その結果、アテローム性動脈硬化症の発症が惹起されると言うメカニズムがある。
 現在までに、歯周病と心臓血管疾患との関連について多くの疫学的・統計調査が報告されている。また近年、アテローム性動脈硬化症のマウスモデルを用いて、Pg感染がマウスの大動脈に局所的な自然免疫応答を特異的に活性化して、アテローム病巣形成を促進する事が報告された。さらにPg口腔内感染によるアテローム性動脈硬化病巣の形成やその病態の促進は、熱処理したPg死菌体での免疫処置により抑制される事も示された。これらの結果より、Pg等の歯周病関連細菌による口腔内感染症がアテローム病変の発症初期段階に関与する事が示唆されている。
 高齢化社会を迎えた現在、医学の分野において、生活習慣病・メタボリックシンドロームとしての心臓血管疾患の病態解明、さらには予防・治療法の開発は、最も研究開発が望まれている領域である。これらの事も考慮すると、口腔感染症や歯周病の予防・治療に携わる歯科医師の社会へ貢献する役割も大きいと思われる。

(参考)
アテローム性動脈硬化症は、10数年前までは高コレステロール血症によるものと考えられていたが、最近では炎症性反応による疾患(心臓血管疾患)であるという考えにShiftしている。この心臓血管疾患の炎症性反応が、感染によって生じる宿主の炎症性反応と類似している事からも、感染性の病原因子がこの疾患に関与している可能性が示唆されており、さらに、細菌やウィルスに対する自然免疫反応と動脈硬化症の関与が指摘されている。
アテローム病変発症の初期段階では、動脈内皮細胞表層にリンパ球が結合する為の様々な接着分子が発現増強する。リンパ球は、血管内皮に付着すると走化性分子(ケモカイン)により血管内膜に透過・侵入する。リンパ球や単球が動脈壁内に侵入した後、macrophageは酸化LDL (low density lipoprotein;脂質の1種)を取り込み、泡沫細胞(foam cell)に分化する。この炎症過程が継続すると、最終的にアテローム硬化病巣が形成される。
炎症性マーカーとしては、急性期炎症性蛋白であるC-reactive protein (CRP)やサイトカイン・ケモカイン、さらには細胞接着分子・自然免疫に関与するToll-like receptor (TLR)等が挙げられている。特に2001年以降、動脈硬化症と自然免疫系に作用するTLRとの関連を示唆する多くの報告がある。例えば、マウスやヒトのアテローム病変Plaque中のmacrophageや血管外膜線維芽細胞にTLR2とTLR4の顕著な発現が認められる事、さらにTLR4の遺伝子多型と動脈硬化症の発症リスクに相関関係を認める事などが報告されている。さらに近年、自然免疫系に作用するTLRのsignal pathwayの動脈硬化発症への関与として、TLR4やTLRのadaptor moleculeであるMyD88のノックアウトマウスでは、アテローム病変形成が抑制される事が報告されており、TLR4やMyD88等のTLR signal pathwayが動脈硬化発症に関与する事が示唆されている。
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