[2006/05/01] インプラントを固定源とした矯正歯科治療
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部
再生修復医歯学部門 顎口腔再建医学講座 口腔顎顔面矯正学分野
堀内 信也  (10期生)

 矯正歯科臨床で広く使用されているマルチブラケットシステムは、治療計画に基づいた固定源を確保することが治療の成否を左右します。固定源とは、動かしたい歯に矯正力を作用させた時に生じる反作用に対する抵抗源を指し、例えば上顎前突を、小臼歯を抜歯することにより治療する場合には、動かしたい歯、すなわち上顎前歯部の遠心移動は、固定源となる臼歯部と引き合わせることによって生じます。しかし、抜歯によって得られたスペースが、固定源となる臼歯部の大きな近心移動によって閉鎖しますと、前歯部の遠心移動量が不足し治療計画に狂いが生じます。このため、上顎前突が解消しません。そこで、固定源の加強として、ヘッドギアを用いて固定力を頭部に求めたり、顎間ゴムにて、反対側歯列に固定力を求めることが行われていますが、得られる固定力には限界があり、患者様の協力が不可避で、絶対的な固定源とは成り得ませんでした。
 こうした問題を解消するため、インプラントを固定源として用いる方法が考案されました。臨床応用開始当初は、欠損補綴に用いるために埋入されたインプラントをそのまま固定源として用いましたが、近年では、矯正治療に特化した形状のインプラントが開発され使用されています。この矯正用インプラントは形状により、プレートタイプとスクリュータイプに大別され、現状では両者を必要な固定力に応じて選択し使用しています。プレートタイプは、頬骨下稜皮質骨などに埋入され、非常に強固な固定力を有する反面、埋入、撤去時の外科的な侵襲が大きく埋入部位によっては多少の違和感があります。一方スクリュータイプは、歯間部皮質骨や歯肉頬移行部などに埋入され、外科的な負担が軽い反面、負荷する固定力によっては脱落する危険性があります。最近では、プレートや、スクリューの形状が工夫され矯正装置との結紮も容易となり、セルフタッピング、セルフドリリングに対応するなど改良は日進月歩です。
インプラント矯正は臨床応用されてまだ日が浅く、十分な予後が得られていないのが現状ですが、患者様の協力を必要とせず、治療中の負担を軽減することに加え、その強固な固定力により、歯列全体の遠心移動や、歯の圧下といった従来では成し得なかった歯の移動を行うことが可能です。このため、抜歯による矯正治療や、外科的矯正治療を回避し、矯正治療の適応範囲を拡大する可能性を有しており、システムの改良や、基礎的背景の解明は大きな注目を集めています。
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